Monday, November 23, 2015

夢を作る・オペラ舞台美術の現場にて


オペラを聴きながらの作業風景



















縁あって、友達のオペラ劇団の美術の手伝いをすることになった。

急遽きまった公演『ヘンゼルとグレーテル』のために、もうひとりの美術担当の人と、約一週間でお菓子の家のセットを作ったのだが、これが想像以上に大変だった。けれど、ものすごく勉強になった。ドイツ出身のマリアからは、舞台美術アーティストとしての働き方や考え方を、友達からはディレクターとして想像上のプランを形にしていくやり方や姿勢を、とにかくいろいろなことを学ばせてもらった。他のスタッフや歌手の人たちもとても素敵な人たちで、みんな一緒になって作業することも多かったので、グループでひとつのものを作っていく楽しさも久しぶりに味わった。

オペラはこれまでも何度か観たことがあるが、劇場の奥の席に座ってじっと聴くのと、隣りの部屋で行われるリハーサルを繰り返し聴くのとでは、当然ながら理解度がぜんぜん違う。今まで雑談していた歌手が、普段着のまま目の前で歌い出すのを聴くと、オペラと言っても何も特別なものではないことが納得できる。結局は歌なのだよね。その歌もいくつか覚えて、メロディを口ずさめるようにもなったことも嬉しいおまけだった。リハがある時は、作業しながら美しい歌を聴くのがなんとも至福。聴いてるとうっとりしちゃって手が進まなくて困ったけど。

先日、その公演がクイーンズのFlushingで行われたのだが、私は仕事のため会場でのリハーサルにことごとく参加できなかったので、自分の手がけた美術がステージにセットされているのを本番で初めて見ることになった。
カメラマンとしてステージ写真を撮りながらだったから、集中して観られなかったけど、カーテンがするすると開いて、ステージセットが実際にお菓子の家として舞台上に現れたときは、ライトの光を一斉に浴びたステージセットが美しく光り輝いて、胸がぐっと熱くなった。

本物のお菓子の家みたい。

私までヘンゼルとグレーテルになったような気がして、魔法がかかったみたいにワクワクした。

二人の歌をにこにこしながら聴いている自分に気付いた時、やって良かった、と心から思った。自分で作った作品を、疑問符なしで目が喜ぶ感覚とともに眺めたのは、久しぶりのような気がする。歌手の歌も演技も良くて、舞台は拍手喝采で幕が降り、お客さんも大満足の表情で会場を後にしていた。
その後はみんなで一気に後片付けをして、コスコのクロワッサンとハムとチーズを分け合ってわいわいと食べた。終わってみると、すべてが夢みたいだ。私たちは45分間の夢を作ったんだと思った。

いま、世界にさらなる暗雲が立ちこめているように見えるけど、こういう時だからこそアートをやる人にはアートをやる人の役割があって、それは世界の美しさを諦めずに表現していくことだと思う。人間が生きるには美しいものや喜びが必要だから、やっぱり文学もアートも音楽も続いていく。私も自分のすることを通して、小さくても、少しずつでも、夢や喜びを世界に増やしていきたいと思う。

Opera Pomme Rougeによる『Hansel & Gretel』より

喜びのジャンプ!

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