NYーそれは光と影の街。
世界から人びとが集まる華やかな光に満ちた街。しかし一歩影に入ると、そこには人間以外の生き物がうごめいている。人間以外の生き物の代表とは、そう、ゴキブリとネズミである。裏のNYはその両者が支配するのではないかと思うほど、彼らはあらゆる場所に頻繁に出没する。NYのゴキブリは日本のそれと比べると「かわいい」が、ネズミに関しては「でかい」というのが私の単純な評価であるが、両者ともその身を人目に晒すことを全く躊躇しないのには、「さすがアメリカ」と唸ってしまう。ネズミなどは地下鉄の線路の上を二匹三匹でわいわい闊歩するし、人も人でネズミを見ただの何だのと騒ぐこともなく、彼らには彼らの世界があるといった風情でプラットフォームを行進する彼らの後ろ姿を横目で流すのみである。昔はニューヨーカーは一体鈍感なのか寛容なのか訳が分からなかったが、今では私もゴキブリが足元を這っていようがネズミたちが目の前で会話をしていようが、気にもならなくなってしまった。鈍感で寛容でいなければ平穏に暮らせないのである。
そのようにNYの人びとに親しまれているネズミだが、ある時デリでこんなケーキを見つけて以来、その異様なセンスに嵌まっている。まさかのネズミ一匹丸ごとケーキ、マウスケーキ(Mouse Cake)である。ネズミを象った黒光りするチョコレートケーキは、おいしそうともかわいいとも言いがたく、頭にはなぜ?の三文字しか浮かばない。なぜケーキの上にかわいくもないリアルな様態のネズミを丸ごとそのまま乗っけるのかさっぱり意味が分からないが、常に店頭に置いてあるところを見ると売れないわけではないのだろう。現に私もこのよく分からないセンスに魅かれて買ってしまったわけだし。
一度はお試しで買ったこのケーキ、異常に甘いだけで特においしいとは言いがたい。これは二回目はないだろうと思っていたのだが、この間友人と同じデリにケーキを買いに来たとき、他に並ぶまあまあおいしそうなケーキの間で散々迷った挙句に私が選んだものは、このマウスケーキだった。おいしくないのは分かっている。しかし、何となく私が買わなければ誰がこいつらを買ってやるのだろうなどと余計な心配をしてしまうのである。セールスポイントを「おいしそう」や「かわいい」でなく「かわいそう」に設定したとしたら、それも立派に機能するのだということを身を持って知った日であった。
*お店情報*"Hot & Crusty", 1st ave and 14th street
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